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第73 - 不妄語戒義釈

不妄語戒は虚言を云うことを禁ずる戒律であって、ウパーサカ五戒中の第四戒である。

 

凡(およ)そ世の中で何か事業をなそうとする者には、必ず信用がなければならぬ。

信用がなければ為替一枚も受取られないこととなる。

商人で信用がなければ安心して商取引してくれる者がなくなる。

人間では信用がなければ親しく交際してくれる人がなくなる。

このように社会人として必要なる信用は、どこから起るかと云えば、虚言を言わないことから起るのである。

 

諺(ことわざ)にも虚言は盗賊の初めとある如く、虚言いう人は詐欺も出来る人である。

詐欺は狡猾なる盗賊である。虚言と泥棒とは親子である。虚言いう心が母で盗賊という子を生み出す。

されば虚言いうことは盗賊と同じく恥じて卑めねばならぬに拘(かか)わらず、現今虚言を何とも思わず平気で云う人が、社会の上下に沢山いるのである。

この事実は二枚舌問題が神聖なる議会において、しばしば起ることに徴(ちょう)しても証明せられるのである。

 

虚言せねば商売が出来ぬように心得て、虚言することが商売の一条件かの如くに、実行する商人がある。

これ等の人々は、一時的利益を得ることのみを主眼として、虚言は永久的利益を阻害するものであるということを知らない。

 

現今は人々が口で云ったのみでは信ぜられないので、何かの約束には必ず証書を作る。

その証書も当人対(つい)の間のものでは、物足らぬとして公正証書までも作成する者が多い世の中である。

これは如何に社会人たる各個人の言語が信ぜられないかの一証である。

 

また貿易商人が見本より劣った品物を送って、一時の利益を占めた為に、永久にその顧客を失うことの如き、虚言の害悪は到る所に現われているに拘(かか)わらず、口で言うこと位は何でもないとして、出まかせを喋々(ちょうちょう)する者が多いのである。

仏教では、身業(しんごう)である殺生偸盗邪淫も、口業(くごう)である妄語も性罪として同一の罪業と認めている。

 

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