目次

第70 - ウパーサカの修法五戒の詳釈

五戒は現今の社会に最も適切なる教条である。

現代人の多くは心界の自性律に無知であるから、喜んで害悪の深淵に跳び込むような行為を敢(あえ)てしている。

 

己(おの)れの生命を大切と思いながら、遊戯のために下等動物の生命を奪うことを楽(たのし)みにしている者がある。

遊猟、網打、釣魚など職業でないのに、屡々(しばしば)興楽的に行う者が多い。

無知の故に喧嘩口論の結果、殺し合いを行い、これを大にしては、一種族、一王侯、一階級のために、他種族、他階級、他国民の大団体を虐殺する如き戦争を行うことがある。

かくの如き無益の殺生をすることを禁ぜられたのが、仏陀の不殺生戒である。

 

然らば仏教は絶対に非戦主義かと云うに、決してそうではない。

悪魔の横暴を除き、人民塗炭(とたん)の苦患(くげん)を救うためには、仏教はそれが戦争を是認するのである。

或は外国人が無法の戦争を起して、われらの国家を奪わんとする時は、奮起して彼等を懲戒しなければならぬとするのが仏教である。

仏の大慈悲心は一切衆生を我子とせられるのであるから、敵の不法に対する恰(あたか)も我子の暴戻(ぼうれい)に対する如き思想で、憐れ不憫ながら他の害を防ぐために慈悲の剣を振って切るのである。

 

かかることは全くの例外であって、普通一般には他の生命を奪い取らない事を確守する教戒である。

特に不殺生戒は無病長寿の原因であると仏陀は示されている。

いわゆる病悩短命の桎梏(しっこく)から解脱せひむる所の別解脱法である。

 

目次 inserted by FC2 system