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第61 - 在家的解脱法

在家的解脱法は、梵語優婆索迦木叉達磨(ウパーサカ モクシャ ダハルマ)と名づける。

初(はじめ)に信心を起して仏法僧の三宝に帰依して、仏教信者となる。これが最初の段階である。

 

まず仏教信者となって、次に不殺生、不偸盗、不邪淫、不妄語、不飲酒等の五戒を持って、優婆索迦(ウパーサカ)、優婆斯迦(ウパーシカ)となる。

この位に上って、菩提心を起し菩薩戒即ち十善戒を持って菩薩となり、俗諦真諦の悟(さとり)を開いて、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧、方便、誓願、力、智の十波羅蜜を修め、菩提の十地を歴(へ)て、遂に仏果を成ずるのである。

この在家的解脱法を説明した経典は、阿含部においては仏本行集経、優婆塞五戒相経、優婆夷随舎迦経等である。

大方広部では勝鬘経、華厳経、維摩経などである。

 

併(しか)しながら、出家的解脱法のみを偏信する人々は、在家には解脱法がないように思うのである。

それは全く誤解であって、かの如来に近い所の弥勒菩薩や、普賢菩薩や、文殊、観音、宝積、維摩の諸大菩薩は、仏陀に一番近い第十地の悟りを開いて居られた。

これ等の事実を見ても在家的解脱法のあることを知るべきである。

 

後世になると、この在家的解脱法である菩薩乗中に、出家的菩薩法を混入して、遂に出家の菩薩という新しい名さえ生ずることとなった。

元来菩薩は在家のみであったことは、菩薩戒と名づけられるものには、出家戒のないことに依て知るべきである。

 

仏在世の当時、仏は在家の有識有徳なる者に対して、十善四諦等を説いて解脱を得せしめられた。

然るに後世大布衍経作家は、三学等を六波羅蜜とし、また十波羅蜜として、大乗とし菩薩乗として、愈々(いよいよ)益々(ますます)隆盛になったのである。

されば阿羅漢仏教にも、比丘菩薩がなければ甚だ物足らぬこととなったので、四向四果の八声聞位を菩薩十地の前八位として、終りの二位だけは、阿羅漢が仏陀となるための修徳位で、それを加えて十地としたものである。

これがために出家が菩薩地を修めるということになったので、後には解脱は出家菩薩の専有でもあるかのようになった。

 

元来菩薩乗とはウパーサカ教法中において、上機の者等の為に説かれたものであって、優婆塞五戒威儀経も、菩薩五戒威儀経も、また菩薩優婆塞五戒威儀経も、皆同本の異名である。

さればこの経には優婆塞と菩薩とを同位同義に用いて居る。

これによっても優婆塞乗は菩薩乗と同一であったことは知るべきである。

 

この事が明白になると、在家的解脱法は菩薩となって大解脱大究竟に向い、出家的解脱法は阿羅漢となって、同じく大解脱大究竟に進むのであるということが明かになるから、別に菩薩と阿羅漢に甲乙のないことも明白になると思う。

 

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