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第5 - 顕密分裂・高上高を築く判釈法

仏滅後四百年頃密教の修行僧サラハ尊者が出で、大小乗に属する諸経を総べて顕教として劣れるものとし、密咒(マントラ)を説明する経典を密教として勝(すぐ)れたものとした。

然るに仏滅後一千余年を経た時は (西暦七百年より一千二百年までの約五百年間) 印度は全く道徳上の暗黒時代であって、真正仏教破滅の時代であった。

この時に当(あたっ)て顕教の上に置いた密教中、稍(や)や真正仏教に一致する正当の右道密教を劣とし、そうしてその敗徳時代の要求に応ずる肉欲実行即ち左道密教を以て勝とした。

 

その判釈の方法は以下の如くである。

 

前表目次の初めのものほど劣小であって、後のものほど勝大とせられるので、最後の三無上瑜伽乗は、ほぼ同一であるけれども、それでも始めの父密乗よりは、母密乗を優勝とし、無二密乗を最上中の最勝とするのである。

この無上瑜伽乗を以て最上中の最上とする理由は、他の顕教等より修密に至るまでは、普通凡人の実行する事の出来ない清浄戒行を持たねばならぬ。然るに無上瑜伽乗は凡人の喜んで行う肉欲の娯楽を受けながら、急速に解脱することが出来る法であるから、現今の人間に取(とり)て最も勝れたものであると云うのである。

全く仏陀の正義に正反する、神聖汚涜の偽経を多数に製造して、肉的享楽最上主義を判釈の究竟に置いて、その時代の印度人民の堕落を助長したのであった。

 

凡(およ)そ人類が堕落すればするほど、肉欲的快楽を追求するものであって、遂に慢性的享楽患者となれば、精神的幸福のあることを知らないで、恰(あたか)も下等動物が交尾を以て、生命の最終とする如くに、彼等もまた性交の娯楽を以て、人類最終の目的たる解脱の幸福とするのである。

この要求に応じて起ったのが、無上瑜伽の偽経でありまたそれを最上とする判釈である。

かくの如き偽経、かくの如き虚偽の判釈が、印度をして亡国に陥らしめた最大原因の一となった事を観れば、かかる思想問題は実に恐るべき大事件であるから、国家の前途を思う人々は軽々に看過出来ない問題である。

 

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