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第39 - 釈尊の万徳円満
仏教統一の根本的本尊であらせられる釈迦牟尼仏は、如何なる徳を備え給う御方であるかと云えば、無始無終の無限の時間に一貫する真理に体達し給い、その真理の体に具有する無辺の道徳を集積し給い、大智慧の光明と、大慈悲の潤沢とを以て、無辺法界の無限の衆生を照導化育し給う徳を具えられる御方である。
仏陀釈尊はその実行戒律の厳粛なる点より云えば、吾等の精神的厳父であらせられる。
その包容的慈教の温和なる上より見れば、吾等の精神的慈母であらせられる。
一切の暗黒的苦患(くげん)を浄除し給う大智慧光の太陽で、一切の枯渇に悩む衆生等に、慰安の浄水を施し給う慈悲の大源泉であるのが、吾等の本尊釈迦牟尼如来であらせられる。
勝鬘経に勝鬘夫人が、釈尊の御徳を讃歎した語に、以下の如き句がある。
- 一、世尊さま、あなたさまの御容貌(みすがた)と
瑞気満ちたる相好とは、全く何処でも見ることが出来ませぬ
おもいも及ばず、譬喩(たとえ)も比較も出来ませぬ
世界の心主であらせられるあなた様に礼拝致します。
- 二、御仏(みほとけ)さま、あなたさまの金剛身(おすがた)と
智の光明とは尽きる所はありませぬ
あなたさまの法も無尽であります
ですから釈迦牟尼様、あなたさまは保護処であらせられます。
- 三、量りない能力を具(そな)え給うあなたさまは
身と言葉と意(こころ)との総ての過失を滅ぼされました
そうして不動不変の地を得られました
法王であらせられますあなたさまに礼拝致します。
- 四、あなたさまは総べて知るべき筈(はず)の事を知られました
智光の体の自由自在者であらせられ
覚悟と妙法などのすべての
究竟に到達せられましたあなたさまに礼拝致します。
- 五、思いも量りも及ばないあなたさまに礼拝致します
一切の譬喩から超絶せられたあなたさまに礼拝致します
不可思議なる法身を具(そな)え給うあなたさまに礼拝致します
無辺の御身であらせられるあなたさまに礼拝致します。
(西蔵訳蔵 宝積部)
以上は主として釈尊の智徳の方面を讃歎したものであるが、その慈悲の方面の徳を讃歎したものには、央掘摩羅(アングリマーラ)の讃がある。
彼は彼の外道時代の教師に命ぜられて、その教命のままに一千人を殺さんとして、九百九十九人まで殺して後に、他に殺す人を得なかったので、彼は遂に彼自身の母を殺そうとした。
その時忽然として彼の前に釈尊が現れた。
彼は母より転じて仏世尊を殺そうとしたけれども、却って世尊にその邪見を説破せられて、彼は大に慚愧心を起し、血を吐く想いに責められ、冷汗遍身に流れて水を浴びたようになり、如来の大慈悲心に打たれて、心底より発した讃歎の言葉が次の如くである。
- 一、何とも不思議です、無上慈愛の御仏(みほとけ)さまは
悍馬(あらうま)の如き者を馴化(なら)すに巧みなるあなたさまは
この私を無知の大海から渡すために
黒闇(くらやみ)な愚痴な惑いの波から救うために御越し下された。
- 二、何とも不思議です、最勝悲心の御仏さまは
悍馬の如き者を馴化すに巧みなるあなたさまは
私が生死(しょうじ)の砂漠にさ迷う困難と
荊棘(いばら)や叢林(くさむら)のような煩悶から救うために御越し下された。
- 三、何とも不思議です、第一歓喜を具(そな)え給う御仏さまは
悍馬の如き者を馴化すに巧みなるあなたさまは
私が抱いている虎狼のような邪見の心や
豺(やまいぬ)や狐(きつね)のような疑惑を救うために御越し下された。
- 四、何とも不思議です、至上の公平を有(もち)たる御仏さまは
悍馬の如き者を馴化すに巧みなるあなたさまは
私のような罪悪に満ちた者でも択(えら)びすてずに
永く盛(さかん)に燃えた火焔(かえん)なる無量の苦痛を消して下された。
- 五、依る所も頼む所もない者のために依処(よりどころ)となり給い
心の親なき者のために親となり給いて
もろもろの悪業を集めて大苦海に陥らんとする
私のために御越し下され依処となって下された。ありがたい。
(大正蔵経 巻二、五二〇頁訳)
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